映画館


鑑賞作品 9000マイルの約束


K:どうだった? 僕は一週間前に観たけど。
O:面白かったねえ。
K:マイナス点は何かあった?
O:今は思いつかないな。出だしは重いけど。
K:重いね。捕虜収容所へ送られるまでが。あそこをもっと軽くしていれば若い人も見やすいよね。
O:俺はあれでいいと思う。重くてもしっかりと描かれているから。俺たちは第二次世界大戦についてこれまでいくつもフィルムを観て、本も読んできてるけど、全然そういうことをしていない世代もいるからな。
K:『夜と霧』とか。
O:その本の存在自体知らない人が多い。しかもそういう世代はこれから増えていくわけだ。でも知らないだけでね、紹介してあげればいいことだ。以前ある学生に『夜と霧』をあげたことがあってな。バイトを手伝ってくれてたいい奴なんだけど、しっかりと読んでたぜ。
K:あの本もストレートだけど、この映画もストレートだったね。
O:原作が実話ベースだからな。
K:いや、作りもさ。
O:ああ、そうだね。見事に直球勝負。音楽も良かった。イヌイットみたいな部族との別れのシーンで(注、ユッピック族)女性スキャットの曲があったろ。あれ良かったなあ。
K:僕はあそこでちょっとホロっときたな。音楽はそういう力があるよね。
O:場面ごとに合わせて何曲も用意しているというのは、当たり前なんだけどとても重要なんだよ。
K:映像もオーソドックスでね。僕はあのカメラワークを観てから、この一週間で色々と考えたよ。映画って何なんだろう、なんて。
O:どんな?
K:カメラワーク、全然凝ってなかったでしょ? 色んなアングルで撮っておいてからコマ割りを細かくして織り交ぜたり、クレーンを廻して動きを出したりといったやり方は、今では当たり前の技術なんだけど、そういうの殆どないからね。
O:対象物をきちんと撮る、みたいな無骨さは感じたな。
K:凝ったカメラワークの元祖はやっぱりヒッチコックなんだ。観客が見たいところをわざと見せない。ドキドキハラハラ。そういう要素をいかに多く盛り込むかで斬新さが出るから。ところがこの『9000マイルの約束』では説明のために必要な情景を撮る、っていうただそれだけなのに、すごく緊張感があった。「ああ、どうなるんだろ、やばいやばい・・・」と。サスペンスとしても一級なんだよ。だから映画ってまだまだ奥が深いなあと思った。これは娯楽作品ではないはずなのに、娯楽として楽しめるんだから。
O:途中で入る空の絵。雪原に一本だけ生えてる木。ただ撮ってるだけなのに、主人公の心情を巧く表してる。
K:あんなに素朴な絵なのに、「やったあ!」なんてこっちも嬉しくなったりね。
O:それにしてもラストの圧巻なこと。バサっと終わっちゃうんだよ。こういう話しでした、ってな。ある意味豪快で、それがまたいいんだな。
K:単に悲哀で泣かせるのと感動で泣かせるのは全然違うよ。例えば小さなかわいい犬を殺せば、観客は泣くからね。感動の涙はそう簡単には誘えない。この作品にはそういう良質の感動があったと思う。観終わってスタッフロールが流れているあいだも、色んなシーンが頭に甦ってくる。音楽も迫ってくる。心にストレートに響く作品だよ。
O:配給がアルシネテランだったな。
K:あそこはいつもいい作品を持ってきてくれるよね。パトリス・ルコントを日本に紹介したのもアルシネテランだもの。
O:原作読もうと思ったんだが、まだ日本語に翻訳されてないんだ。ヨーロッパでは知らない人がいないほどの有名な本らしい。ドイツ語じゃ読めないしなあ。
K:立花隆が「もう小説は長いこと読んでない。ドキュメントのほうが断然面白いから」って言ってたけど、こういう作品観ると少し理解出来るよね。
O:事実は小説より奇なり、だ。

 参考資料
 東芝エンタテインメント(株)・アルシネテラン『9000マイルの約束』独/2001年 監督/ハーディ・マーティンス 主演/ベルンハルト・ベターマン、ミヒャエル・メンドゥル
 みすず書房『夜と霧』V.E.フランクル 訳/霜山徳爾



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