森に吹く風
ある日の風景 その1

営業報告をまとめて本店に送ったのが午後六時過ぎ。金曜の夜ということでみんな帰り支度が早い。繁忙期はまだ一ヶ月先なのだ。
机上の書類をしかるべきところに収めてから、自分もコートに袖を通す。総務部の連中はもうとっくに帰っている。若手に戸締まりを任せて外に出ると、なま暖かい風がびゅうびゅうと吹いていた。東京の三月は気まぐれに大雪が降ったりすることもあるが、強い南風が吹くごとに気温は上がる。このあいだ梅が咲いたし、桜のつぼみもだいぶ膨らんできた。今朝は山手線に乗っていて線路脇に菜の花を見つけたので一日中いい気分だった。何をするというわけではないが、春は心が軽くなるものだ。
地元の駅前スーパーで食材を買う。毎度のことながら非常に面倒くさい。全部外食にしてしまえば楽ではあるが金が掛かってしょうがないし、健康にも良くないみたいだ。安売りしていたセロリーを一束と納豆、レトルト食品を買う。主婦に混じって会計を終え、そこから歩くことちょうど三分。エレベーターで六階に上がって二つの鍵を開けると、ようやく我が小さな城にご帰還である。

スーパーの袋を放り投げ、ラジオの電源を入れてからシャワーを浴びる。汗とともに日中の喧噪やら想念も洗い流していると、サイモン&ガーファンクルの『アメリカ』が聞こえてきた。おお懐かしい。よくこれを聴きながらシャモア・スポーツのカタログを眺めていたっけ。ティンバーランドの4列ステッチワークブーツが憧れだったよなあ・・・。
身体を拭って下着を身につけたときにはもう心づもりが出来ていた。ようし、キャンプに行くか!
参考資料
ティンバーランド
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