NATURAL HIGH
高速滑走のエクスタシー
はやる気持ちをぐっと抑え、そこはかとなく涼しげな顔つきでスケーティングしてゲートに並ぶ。背もたれに押しつけられるような勢いでクワッドが動き出すと、やっぱりニヤッと顔が崩れてしまう。冷たいけど鮮烈な空気。ポールごとに聞こえてくるスキー場特有のポップミュージック。普段は聴かないのに、何故か口ずさみたくなる。スキーやスノーボードはウィンタースポーツの花形だ。寒いだけだったはずの冬が、待ち遠しい季節へと変化した経験をお持ちの方も多いと思う。
二本目、三本目とリフトを乗り継いで、一気に高度を稼いでいく。目指すのは最高地点。勝手の知らない初めてのスキー場でも、とにかく頂上に行きたい。恐ろしげな急斜面が広がっていたら、そのときに真っ青になればいいのだ。
いよいよ終点で降りてから、一寸端に寄る。ブーツのバックルを固く締め、上着のジッパーを引き上げながらゆっくりと顔を上げる。

少しだけ平らな部分が開けているが、その向こうは一気に斜面が落ち込んでいる。遙か下のほうで他のスキーヤーたちが小さく動いているのが見える。最大斜度37度。知ったことか! 内心のビビリを遠くに放り投げ、あんまり考えないうちに思い切って斜面に突っ込んでしまう。
耳元で唸る風の音。エッジが雪面を削る音。自分の呼吸。他には何も聞こえない。頭にあるのは予想地点できれいにターンすることだけ。他には本当に何もないのだ。営業会議も、月末の煩雑さも、煩わしい人間関係も。全てが消え去ってしまう、このマジック!
スキーの醍醐味はスピード感だ。車やバイクを飛ばすのも快感ではあるが、道交法とモラルという枠がある。ジェットコースター等は自分でコントロール出来ないから全く違う。板と身体だけで、限界まで飛ばす。ターンも最小限。思わず声を上げながらも加速を止めない。そのときのエクスタシーったらない。
どこまでもスピードを追い求めた果てにあるものは、空なのだと思う。スキーは落ちていくスポーツだが、落ちるのが目的ではない。落ちていくあいだの意識はやはり“飛んで” いるからだ。

エアリアルスポーツになると、もっと突き抜けているクレイジーな人間がごっそりといる。彼らは“飛ぶ”ためにはテッテイテキに追求するのだ。スキーで滑って、ボードで飛び出して、トランポリンで浮かぶ。最終的には気球だとかミグに乗って本当に空を飛んでしまうのだ。
高く、高く、もっと、高く。速く、速く、もっと、速く。雲を抜け、空気の薄いところまで。見たことのない蒼い高みへ。遙かなる高みへ・・・。その先に待っているものこそ、人々が追い求めて止まないインモラルな世界なのだ。
Photograph of skiing extracts from
outdoor review.com with goodwill.