郊外へお出掛けなのだ
南伊豆〜白浜 後編

稲取を過ぎたあたりから景観が変わった。どこが違うのかと問われるとうまく言えないのだが、もう半島の先端に近づいているんだなという感じが景色の中にあるのだ。はじっこ感覚とでも言おうか。それは「けっこう遠くまで来たなあ」なんていう旅愁が強まって大変にいいものでもある。このあたりは千葉の館山より南なのだ。
これまでずっと走ってきた135号線沿いには、あちこちに河津桜が見られた。河津桜というのは寒桜の一種で、伊豆地方にはよく見られる種類だ。花はソメイヨシノよりも濃いピンク。すでに半分は葉桜になっていた。東京ではこのあいだ雪が降ったというのに信じられない光景である。
トンネルを抜け、小さな岬を回り込むと、道路脇に番号の付いたポールが立っていた。教えられた通りに4番のところで左折。ぐっと道幅は狭まって車一台分である。その両脇にはアロエがびっしりと自生している。小さな橋を渡ったところ、左手に“竜宮荘”はあった。とうとう着いたのだ。
駐車場に車を入れてイグニッションを切る。打ち寄せる波の音が聞こえている。強風が吹きつけていて、海辺特有のどこか殺伐とした感じがした。周囲には民家と民宿が何軒かあり、そのあいだを狭い道が通っている。脇には水路。誰もいない。

古い記憶にはかなりの自信があるのだが、ここの風景は想い出せない。すぐ近くに水産試験場という設備があって、それは見た目が小さなプールみたいなのだが、それだけは微かに見覚えがある。いやどうだろう。どこかの風景とだぶっているのかもしれない。思い違いか。するとここは昔やってきた宿ではないのか。ともかく車に戻って荷物を出し、格子戸を開けた。「こんにちは〜」
そこにはあら、あのおっかさんがお出迎えしてくれているではないか! お懐かしや!
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