映画館


鑑賞作品 幸せになるためのイタリア語講座


K:すごく良かった。
O:すっかり引き込まれたな。始まってからずっと何か緊張感があったけど、あれはシリアスなシーンのせいだけじゃないよな?
K:不安定なカメラワークのせいだよ。手持ちでわざとブレを出して、ぶっきらぼうなズームアップを多用する。それでドキュメンタリーフィルムみたいな緊張感が出るから。『トラフィック』でもあの手法使ってだいぶ話題になったよね。そういう意味では、この映画は最近の映像なんだね。
O:結構きつい設定も入ってたなあ。邦題と予告フィルムを観た限りではホンワカした恋愛映画だって思うからな。
K:映像に負けてないからね、ストーリーとか演技とか。
O:あの不器用な女の娘いただろ? オリンピア。
K:ああ。
O:ああいう人、単純に笑い者になることが多いけど、実際今日も場内でみんな最初から笑ってたけど、俺は笑えなかったんだ。最後のほうでちゃんと説明があるだろ。先天的な原因があるって。彼女が「自分で解決出来ない」って泣いたとき、俺はグッときたなあ。笑ってた奴らに「何がおかしいんだよ」なんて言いたかったんだけど、映画でちゃんと説明してくれた。あそこですっかりやられたな。削るところは削る。最低限の説明は必ずする。それがきちんと出来てた。
K:牧師のアンドレアスがうまく慰めるところもいいね。ユーモアを交えてさ。
O:いつでもユーモアを忘れないっていうの大事だよ。二、三年前に、“自分の子供にどういう大人になって欲しいか”っていうアンケートがあったんだ。米国と日本と英国で行われてな。その結果、米国は「愛国心のある人になって欲しい」、日本は「思いやりを持った人になって欲しい」、英国は「ユーモアのセンスがある人になって欲しい」がそれぞれ一位だったんだ。一番大事にして欲しいのがユーモアのセンスだぜ。それはつまり、心に余裕のある人間になって欲しいってことなんだよ。ユーモアを忘れて何とする、って言うだろ。この映画はデンマークだけど、そこは共通してると思うな。
K:ヴェニスでさ、ジュリアが結婚申し込まれたとき「今ちょっと教会に行って考えてくるわ」って言うじゃん。それでちょっとだけ離れて見えないところに行って、空を仰いですぐに戻って「いいわ」って言うでしょ? あれ、ただの可愛らしさの演出かなあ?
O:違うよ。神父のアンドレアスが何度も「神はあらゆるところにいる」って言ってただろ。神の存在について老神父と激しい議論をしたり。あのことの証明だよ。彼女は最初っから厨房でもどこでも神に祈ってるからね。それを観ると、いつも期待ばかりしていて夢見ている少女という風に見えるけど、彼女こそ敬虔な信徒だし、アンドレアスが言う普遍の神を信じている役なんだ。答えがちゃんと出されてるんだよ。
K:なるほどねえ。あのアンドレアスの役者、良かったね。
O:みんな良かった。デンマークの役者なんて知らなかったけど、いいねえ。
K:アンドレアスが最後に「マセラッティはもう要らないから売る」って言ったのは何でかな?
O:オリンピアと一緒に生きていこうって決心したんじゃないかな。最初からさ、若いとはいえ神父なのにマセラッティはねえだろ、って疑問だったよな。あれ、奥さん亡くしてから買ったんじゃないかなあ。そうすることで喪失感を埋めようとしたとか。だから老神父との議論で“喪失”っていうことにも話しが及んだんだよ。あそこ、かなり激しいシーンだからね。それだけ訴えたいわけだよ。
K:Oは引き込まれたって言ってたけど、こんなに気持ちを翻弄された作品は久しぶりだったね。始まりは色々あって、最後はうまくまとまるっていう単純な話しではないでしょ? 途中でホワッと暖かい気持ちになったかと思えば、急に喧嘩が始まったり、オリンピアのことが分かったり。それで最後もやたらめったらのハッピー・エンドではないところがいいね。実に落ち着いた、穏やかなしみじみとしたハッピー・エンド。よくあれでストーリーが荒れなかったねえ。
O:ちゃんとまとめたからな。巧いよ。それにリアルなんだよな、やっぱり。現実の世界って実際こういう風だから。リアルな世界は厳しいこともあるけど、本当にそれらは厳しいけど、でも生きていて良かった、って思える瞬間が必ずある。それがあるから生きていられる。そういうことを再認識させられる作品だった。
K:予算なんか全然掛けてないのにねえ。すごくいい映画だったね。

 参考資料
 ザジフィルムズ『幸せになるためのイタリア語講座』デンマーク/2000年 監督/ロネ・シェルフィグ 主演/アンダース・W・ベアテルセン、アン・エレオノーラ・ヨーゲンセン
 USAfilms『トラフィック』米/2001年 監督/スティーブン・ソダーバーグ 主演/マイケル・ダグラス、デニス・クエイド



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