映画館
鑑賞作品 たそがれ清兵衛

O:さて、アカデミー賞ノミネートを記念して、丸の内ピカデリーでリバイバルをやってくれたわけだけど、劇場で観るのは初めてだな。
K:DVDで観たからねえ。これは劇場で観るべきだった、って思うことよくあるけど、まさにそうだったね。
O:実にいい映画だな、これ。始まりのタイトルが出るところからもうすっかり心が捕まれてるんだ。
K:出だしから黄昏れているわけでしょう。それが心にグッとくるけど、別に悲しいわけではないんだね。一家の貧乏な暮らしぶりをずっと描写していっても、暗くないし後ろ向きでもない。前向き。たそがれといえば『黄昏に燃えて』ってあったけど、あれは貧乏イコール悲惨っていう映画だったなあ。
O:清兵衛は椿が咲いたといっては喜び、娘が論語を憶えたといっては感心して一緒に暗唱する。
K:今の暮らしが幸せだと言い切ってるよね。
O:俺、あの映画観てると涙出てくるよ。
K:周りの人たちも声を殺して泣いてたねえ。ご高齢の人ばっかり来てたけど、あの人たちはみんな清兵衛みたいな暮らしを実際に体験してるはずだよね。だから観ていて「昔は自分もあんなことがあった」というリアルな共感が出てくる。でもそこで感じるのは悲しい気持ちじゃないよね。
O:それがこの映画の本質だよ。貧しいけれども心はとびきり美しい。食ったあとの茶碗に湯を注いで飲んで、そのまま食器入れにしまうシーンなんかあったけど、あれも体験者は「そういや昔はみんな普通にやってたなあ」と思えるわけだよ。俺も子供の頃やってたからね。実はそんなに昔のことじゃない。そこで貧乏臭さを感じさせない作りなんだ。今は日本中のみんながまあまあの暮らしを出来るようになったし、望めば世界中の物が手に入る。そうやって豊かにはなったけど、その一方で故意に捨て去ってきたものはどんなものだったろう、という疑問がいつも心にある。それを“これでもか”とストレートに表現しているんだね。
K:あの二人の娘がすっごくいい娘でねえ。
O:本当にいい子だよ。優しいんだよ。でも子供らしい我が儘を言うシーンもキチンと撮ってあるからな。それから宮沢りえも良かった。立ち振る舞いに相手への思いやりとか気遣いが出てるから、全て美しい。日本人固有の何気ない所作振る舞いが一つ一つ美しいのは、気持ちが込められているからなんだな。
K:真田広之の演技は最高だったと思う。もはや彼を単純にアクションスターとは呼べないね。素朴でダサいけど、太い芯が一本ビシッと通っているという複雑な役柄を巧くこなしてる。それにあの殺陣の見事なこと! 剣術をやってなければ出来ないよね。余吾との決闘のシーンは時代劇映画史上でもトップクラスの出来映えだった。
O:カメラワークもいいな。

K:そうそう。建具の向こうでドタバタとやって暫く見えない。と、その建具を破って二人が飛び出してくる。あれは巧いね。山田監督は殺陣のシーンをだいぶ研究したらしいんだけど、その甲斐あったよね。
O:音楽が富田勲というのも泣かせる。
K:おしくもアカデミー賞を逃したけど、この映画の良さの深い部分っていうのは日本人以外には伝わらないんじゃないかなあ。細かいシーン全てにメッセージが込められているからね。礼儀とか、様式とか。実際この作品は、海外では文芸作品として受け止められているから。知識層の人々が観るような映画だと思われるんだよね。
O:これは娯楽だよ。
K:そうだよね。そして分かり易いテーマ。もともと山田監督の映画は説明が丁寧過ぎるくらいだからね。誰が観てもこの作品の持つテーマとメッセージは分かると思う。
O:ピカデリーに感謝だなあ。劇場で観られて良かったよ。
参考資料
松竹『たそがれ清兵衛』日 2002年 監督 山田洋次 主演 真田広之、宮沢りえ
日本ヘラルド『黄昏に燃えて』米/1987年 監督/ヘクトール・バベンコ 主演/ジャック・ニコルソン、メリル・ストリープ
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